九億円――この金額を超えると、国の建設工事は国際ルールに乗る

予定価格が九億円以上の建設工事を国の機関が調達する場合、契約の手続は世界貿易機関(WTO)の政府調達協定で定められた国際ルールに従うことになります。この基準額を超える案件は、入札の参加資格や評価の仕組み、公告の期間など、協定で定められた手続きを守らなければなりません。

私も国の工事の入札に関わるなかで、この九億円という線が契約の手続の枠組みを分ける境目になっていることを何度も目にしてきました。

基準額は財務省が二年ごとに定める

この九億円という基準額は、財務省告示第28号(令和8年1月30日)で定められています。国の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令第3条第1項に基づき、財務大臣が区分と額を決めるもので、令和8年4月1日から令和10年3月31日までの間に締結される調達契約に適用されます。

基準額は調達の種類ごとに分かれており、建設工事は九億円、建築のためのサービス・エンジニアリング・サービスその他の技術的サービスは九千万円、物品等の調達契約は二千万円とされています。

本文の図解

基準額の根拠はWTO政府調達協定

この基準額は、二千十二年三月三十日ジュネーブで作成された政府調達に関する協定を改正する議定書によって改正された千九百九十四年四月十五日マラケシュで作成された政府調達に関する協定(改正協定)を実施するために設けられたものです。

政府調達協定は、政府機関が一定額以上の物品・サービスを購入する際の手続きを国際的に統一し、公正な競争を確保するための枠組みです。日本は協定の締約国として、基準額以上の調達には協定に定められた手続きを適用する義務を負っています。

基準額を超えるとどう変わるのか

予定価格が基準額以上になると、次のような手続きが求められます。

  • 入札の公告を協定で定められた期間以上にわたって行う
  • 参加資格の審査基準を明確にし、差別的な取扱いをしない
  • 技術仕様を特定の供給者に有利にならないよう定める
  • 入札に関する文書を英語でも提供する場合がある
  • 落札結果を国際的に公表する

基準額未満の工事でも、国の機関が発注する一般競争入札には予決令や会計法に基づく手続きが適用されますが、基準額以上になると協定上の義務が加わる形になります。

私が実際に目にした案件では、基準額を超える工事の公告期間が通常の案件より長く設定されており、また仕様書の書き方も協定の求める水準に合わせて丁寧に作られていました。

基準額は二年ごとに見直される

基準額は二年ごとに見直され、その都度財務省告示として公表されます。今回の九億円という額は、令和8年4月1日から令和10年3月31日までの二年間に締結される契約に適用されるもので、次の改定は令和10年春頃に行われると見込まれます。

基準額の見直しは、国際通貨基金(IMF)が公表する特別引出権(SDR)と円の為替レートに基づいて行われます。協定では基準額がSDRで定められており、これを直近二年間の平均レートで円に換算した額が告示されます。

令和8・9年度の基準額が九億円になったのは、令和6・7年度の八億一千万円から引き上げられたもので、円安の影響が反映されています。

入札に出る側が意識すべきこと

建設会社が国の工事の入札に参加する際、予定価格が基準額を超えるかどうかは公告の内容を見れば分かります。基準額以上の案件では、公告の様式や記載事項が協定に対応した形になっているためです。

基準額以上の案件に応札する場合、提出書類や技術提案の要件が通常の案件より詳しく定められていることがあります。また、参加資格の審査も協定の求める基準に沿って行われるため、事前に求められる要件を正確に把握しておく必要があります。

私自身、基準額を超える案件では、仕様書や公告の内容を読み込む時間を通常より多めに取るようにしています。協定に基づく手続きは、国内の通常の手続きと細部で異なる点があるためです。

基準額は予定価格で判定する

基準額の判定に使われるのは、発注者が見積もった予定価格です。入札に出す金額(入札価格)ではなく、発注者側が工事の内容から算出した予定価格が九億円以上であれば、その案件は協定の対象となります。

予定価格は公告の時点で発注者が既に決めているもので、入札書の開札前に公表される場合もあれば、開札まで非公表とされる場合もあります。いずれにしても、公告の段階で基準額以上の案件であることは明示されています。

――この記事は、公共工事の入札に携わる建設会社の支援に取り組む株式会社Kuwana代表の桑名敏次が、実際の入札実務で見てきた基準額の扱いをもとに書きました。