「安く入れたのに失格」はなぜ起きるのか
予定価格・調査基準価格・最低制限価格――この三つは、どれも「価格の線」でありながら役割がまったく違います。予定価格は札が収まるべき上限、最低制限価格はこれを下回ると自動で失格になる下限、調査基準価格はそこを割ると調べが入る目安の線です。この三本の線を一緒くたにしてしまうと、「精一杯安く入れたのに失格」という結果が起こります。
予定価格――札が収まるべき「上限」
まず予定価格です。これは発注者があらかじめ定めておく、契約金額の目安となる価格です。国の工事では、契約担当官等は予定価格の制限の範囲内で最低の価格をもって申込みをした者を契約の相手方とすることになっています。つまり予定価格は、札が収まっていなければならない上限として働きます。これを一円でも超える札は、どれほど魅力的な中身でも相手にされません。
予定価格そのものの決め方にも決まりがあります。予定価格は、契約の目的となる物件または役務について、取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に定めなければならない、とされています。発注者が気分で置いてよい数字ではなく、根拠を積み上げて決める数字だ、ということです。

調査基準価格――下回っても「即失格」ではない線
次が調査基準価格です。これは、札がこの線を下回ったときに、本当にその金額できちんと工事を仕上げられるのかを発注者が調べる、その入口となる価格です。国の工事では、相手方となるべき者の申込みの価格によってはその者により契約の内容に適合した履行がされないおそれがあると認められるときは、最低価格の者ではなく、ほかの者のうち最低価格の者を相手方とすることができる、と定められています。これを受けて、各省各庁の長はその判断の基準をあらかじめ作成することになっており、札がその基準に該当することとなったときは、きちんと履行されるおそれがあるかどうかを調査しなければならない、とされています。
ここで大事なのは、調査基準価格を下回っても、その場で失格になるわけではない、という点です。調査を経て問題なく履行できると認められれば、落札に至ることもあります。ただし調査の手間と説明の負担は確実に増えます。地方公共団体の工事でも、同じ考え方の低入札価格調査の仕組みが地方自治法施行令に置かれています。
最低制限価格――下回れば「自動で失格」になる線
三つめが最低制限価格です。これは調査基準価格とは働きが決定的に違います。地方公共団体の工事では、契約の内容に適合した履行を確保するため特に必要があると認めるときは、あらかじめ最低制限価格を設けて、予定価格の制限の範囲内で最低制限価格以上の価格をもって申込みをした者のうち、最低の価格の者を落札者とすることができる、とされています。
言い換えれば、最低制限価格を下回った札は、調査もされず、理由も問われず、自動的に落札の対象から外れます。安さを競っていたつもりが、この線を割り込んだ瞬間に土俵から降ろされるのです。調査基準価格が「調べる入口」なら、最低制限価格は「越えてはならない床」だと私は受け止めています。
三つの線をどう使い分けるか
整理すると、予定価格は札が収まるべき上限、調査基準価格は下回ると調査が入る線、最低制限価格は下回ると即失格になる線です。札は予定価格以下に収め、同時に下限の線を割り込まない幅に置く――これが入札で価格を考えるときの土台になります。
私がおすすめしたいのは、価格を詰め始める前に、その案件の公告や入札説明書で、どの下限の仕組みが使われているかを一度確かめておくことです。下限の有無と種類を知らないまま最安を狙うのは、見えない崖に向かって走るようなものだからです。三つの価格の役割を押さえておけば、価格を下げる判断にも、下げすぎない判断にも、理由を持てるようになります。
――筆者は株式会社Kuwana代表の桑名敏次です。公共入札の実務支援のなかで、価格の線の読み違いによる失格を何度も見てきました。
入札情報の収集を仕組み化したい方は BidNavi のサービス紹介をご覧ください。



