価格ではなく、書類で負ける
私は長く、中小の建設会社が公共工事の入札に向き合う現場を見てきました。見積もりを詰めて、ぎりぎりまで価格を考える。その努力は尊いものです。けれど、価格を出す前の段階で勝負が終わってしまう場面があることを、私は何度も見てきました。入札書や添付書類のほんの小さな記載不備で、その入札そのものが「無効」として扱われてしまうのです。
国の工事の契約は、会計法で、原則として公告をして競争に付すと定められています(会計法第29条の3第1項)。決められた手続きとルールの上に成り立つのが、国の入札です。手続きの土俵に正しく乗れていなければ、どれほど良い価格を出しても、その札は数えてもらえません。
実際に無効とされた事例
これは私の推測ではありません。地方整備局は、過去に競争参加資格が無いとされた事例や、入札を無効とした事例を公表しています。そこに並ぶ理由を読むと、特別なことではなく、日々の事務のわずかな抜けが原因になっていることが分かります。
公表された事例の中には、工事費内訳書の記載に不備があったものがいくつもあります。たとえば「単価の記載がない。」もの。「表紙のみ添付され、項目・金額等が記載された書類が添付されていない。」もの。さらには「該当工事の内訳書が、2種類添付されていた。」もの。どれも、金額の中身そのものではなく、書類の体裁や添付の仕方でつまずいた例です。
書類の不備は内訳書だけではありません。「委任状が提出されていない代理人」が行った入札も、無効とされています。入札保証が必要な案件で、その納付が確認できなかったために無効となった例もあります。価格以前の、提出物がそろっているかどうかで、結果が分かれているのです。

なぜ、慣れた担当者でも間違えるのか
私は、これらを「不注意」の一言で片づけたくありません。私の経験では、入札の書類は、案件ごとに様式も求められる添付物も少しずつ違います。電子入札の案件もあれば、そうでないものもあります。工種の指定、様式の版、添付ファイルの数――確認すべき点が多く、しかも締切の直前に一気に作業が集中します。人が目視ですべてをさばく限り、どこかで抜けが起きるのは、むしろ自然なことだと私は考えています。
とくに、長く担当してきた人ほど、「いつも通り」で手が動いてしまい、今回だけ違う指定を見落とす、ということが起こり得ると私は見ています。私自身、別の事務作業で、慣れが油断を生んだ失敗をした経験があります。
私が勧めたい、三つの備え
ここからは、私が中小の建設会社におすすめしたい備えです。
一つ目は、案件ごとの「提出物リスト」を、公告と説明書から毎回つくり直すことです。前回のリストを使い回さない。様式や添付物は案件ごとに変わることがあるからです。
二つ目は、入札書と内訳書を、作った本人とは別の人がもう一度見る体制です。単価の空欄、表紙だけの添付、工事名や発注者名の記載漏れ――他人の目のほうが気づきます。一人で完結させないことが、いちばんの保険だと私は思います。
三つ目は、締切から逆算した余白づくりです。締切の当日に内訳書を仕上げる段取りをやめ、前日までに提出物一式を固めておく。早めに社内のスケジュールへ落とし込んでおくことをおすすめします。
書類仕事こそ、仕組みで守る
私は、仕様書の読み取りと見積もりの突き合わせに、かつて1時間30分ほどかけていた作業を、いまは5分未満で終えられるようになりました。やり方を人の集中力から仕組みへ移しただけです。手作業で守っていた部分を減らせば、その分、肝心の「価格をどう攻めるか」に頭を使えます。
書類の不備で無効になるのは、本当にもったいないことです。せっかくの見積もりが、数えられもせずに終わってしまう。価格で堂々と戦うために、その手前の事務こそ、人の注意ではなく仕組みで守ってほしいと、私は願っています。
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